ジブリ映画「君たちはどう生きるか」の感想 ※ネタバレあり

僕は宮崎駿監督の大ファンという自負があり、これまでの多くのジブリ作品に影響を受け、大いに楽しませていただきました。
今回初日に「君たちはどう生きるか」を観てきましたので感想を書きます。
ネタバレなしにすると表層的な感想になってしまうため、ネタバレありにします。是非観たことがある人のみ読み進めてくださいませ。

 

 

 

※注意以下ネタバレあり※

 

 

勝手に抱いてしまっていた期待、そして失望

まず率直に観て思った感想としては「期待をし過ぎた」でした。「君たちはどう生きるか」というタイトルから、近年ウクライナで戦争が起き、コロナに悩まされた世界に対する強烈な前向きなメッセージ、宮崎駿監督からの人生に対する答えを貰える、と勝手に思ってしまっていました。
映画ではそのようなはっきりとしたメッセージは無く、より抽象的なメッセージとして我々に与えられます。表題となった吉野源三郎の小説「君たちはどう生きるか」を読んでいると、「自分を中心とした世界像から、世界の中に存在する自分、という考え方の転換」が強烈なテーマとして与えられ、読者も気づきを与えられます。そのようなエッセンスも今回の映画に感じることはできましたが、あくまで柔らかに伝えられます。何か人生のヒントをこの映画から得たい、と勝手に思ってしまっていた僕は肩透かしをくらったような感覚に陥ってしまいました。

戸惑い1:細かい感情の動きや成長の過程が描かれていない

主人公の眞人は、父の子を妊娠した母の妹・夏子を「下の世界」へ救いに行きます。はじめは夏子を母親と認められなかった眞人が夏子のことを「母さん」と呼び、夏子を母と認める最も象徴的なシーンがあるのですが、正直そこまでに至る主人公の成長や、細かい感情の変化の描写が充分で無いと感じました。
眞人が「母さん」と呼んだら感動するだろうな、というありきたりな感動ポイントであり、作者の意図が自分には見えてしまって冷めてしまいました。これまでの宮崎駿監督作品では主人公の細かい感情変化や成長するまでの人の関わりやストーリーが描かれていたため何故だろうという気持ちだけが残っています。

戸惑い2:新たな表現

夏子を「下の世界」へ助けに行った際、眞人は夏子から「死ね」と言い放たれます。これは宮崎駿監督作品らしく無いと思ってしまった瞬間です。(これも自分の勝手に抱いていた宮崎駿像なのですが)
暗い、内向的な表現が描かれ、まるで庵野作品や近年の鬱アニメを観させられている感覚になりました。ここまで酷いことを言った、新しい母親を主人公が助けたいと思う動機や、最終的に無事に2人で現実世界に帰ってこれて唐突なメデタシメデタシ感が納得いきません。
ショッキングな「死ね」のような言葉や鬱っぽい世界観は他のアニメ作品にありふれているもので、そのアンチテーゼを宮崎駿監督作品には感じて信頼していたため、自分は戸惑ってしまったのだと思います。

間延びシーンの多さ

後半以降の館から「下の世界」へ行く所から没入感があり、観ていてワクワクしたのですが、前半が退屈で余計なシーンが多かったように感じます。なぜ現実世界の描写を多くしたのかその理由が分からないままラストを迎えました。千と千尋くらいのスピード感でワンダーランドへ向かって、必要であれば回想シーンで現実世界を描く形で良かったので無いかな、と。ただ書きたいものを書いて、エンタメ性という視点が抜けてしまっているように感じてしまいました。

勿論、良い部分も多くあった

キリコさんの住む世界の不思議さはとても面白く、魅力的でした。また憎めないキャラクターであるアオサギとの冒険を通じて友情が生まれ、少年のはじめての友達となるストーリーもとても好きです。動物を最終的に優しく扱う所や、動物のある種の気持ち悪さも描く所も流石です。宮崎駿監督でしか観られない、細かいアニメーション表現も健在でした。
久石譲先生の音楽も相変わらず良かった。今回ピアノ曲が多かったように感じました。
良い部分が多くあったからこそ、細かい人物の感情描写やストーリーに対して惜しいなと感じているのだと思います。

まとめと淡い期待

「君たちはどう生きるか」を観て感じたことは、思ったより自分は宮崎駿監督に対して勝手な期待を抱いてしまっていたのだなということです。この人ならこうする、とか、答えを導いてくれるとか、こういうことは言わない、とか。勝手に人物像を固定してしまう。人は多面性を持っており、これは人間関係に於いてはっきりと間違いと言えるでしょう。
今回宮崎駿監督は82歳にして新たな表現を見せてくれました。これは凄い、凄すぎる。なんとなくこれが宮崎監督の最後の作品と自分には思えませんでした。まだまだ俺は新しいものをみせるぞ、と。淡い期待を抱かずにはいられないのです。

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